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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)6195号 判決 1999年5月13日

原告

福留優治

被告

畑中リツ子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成七年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の軽四貨物自動車が福留ハツエ(以下「ハツエ」という。)運転の足踏式自転車に衝突し、同人を死亡させた事故につき、同人の子である原告が被告に対し、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成七年六月二一日午前七時一五分頃

場所 宮崎県都城市乙房町二八二四番地二和田方南方約一〇〇メートル先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 軽四貨物自動車(宮崎四〇な八八六三)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

事故車両二 足踏式自転車(以下「ハツエ車両」という。)

右運転者 ハツエ

態様 被告車両がハツエ車両に衝突した。

2  ハツエの死亡

ハツエは、本件事故により脳挫傷等の傷害を負い、平成七年六月二三日午前七時一五分頃、死亡した。

3  相続

ハツエの死亡当時、原告はその子であった。

4  損害の填補

原告は、本件交通事故に関し、被告から一九万三二三六円、自賠責保険から一四九八万五四六〇円の支払を受けた。

二  争点

1  事故態様

(原告の主張)

本件事故は、北から南に向かい走行していた被告車両が進行方向左側道路から進行してきたハツエ車両に衝突したというものである。被告の進行方向からは、ハツエの進行してきた道路を十分に見通すことができたが、被告は交通が閑散であることに気を許し、助手席にいた孫と話をしていて左方の安全確認を怠った過失により、本件事故を起こしたものである。本件事故におけるハツエの過失割合は三割とするのが相当である。

(被告の主張)

ハツエは、被告車両が優先道路である幅員七メートルの道路を進行中、幅員三メートルの道路から、左右の安全を確認しないまま被告車両進行中の道路に飛び出したものである。被告は、制限速度時速五〇キロメートルのところ時速約三五キロメートルに減速の上、前方を注視していたが、本件事故当時は雨が降り視界が悪かったところ、透明な雨合羽を着たハツエが、前かがみの状態で被告進行道路に飛び出してきたので避けられずに本件事故に至ったものである。本件事故における被告の過失割合は二割五分とするのが相当である。

2  損害額

(原告の主張)

(一) 治療費等 二〇万六三九六円

(二) 逸失利益 一〇七四万〇七九〇円

基礎収入 平成六年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計女子労働者(六五歳以上)の二九八万八七〇〇円

生活費控除率 三割

新ホフマン係数 五・一三四(死亡時七三歳)

(三) 死亡慰謝料 二三〇〇万円

(四) 葬儀費用 一二〇万円

(五) 弁護士費用 一九〇万円

よって、原告は、被告に対し、損害金合計額三七〇四万七一八六円から既払金合計一五一七万八六九六円を控除した残額である二一八六万八四九〇円の内金五〇〇万円及びこれに対する本件事故日である平成七年六月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の主張)

否認する。

逸失利益は、事故前の現実収入を基礎として算出すべきである。ハッエはいわゆる独居老人であり、同人については家事労働という概念がそもそも認められない。生活費控除率は五割が相当である。

死亡慰謝料は高きに失する。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(乙六1、2、4ないし8)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、宮崎県都城市乙房町二八二四番地二和田方南方約一〇〇メートル先路上の交差点(以下「本件交差点」という。)であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件交差点は、北西・南東方向の道路(以下「主道路」という。)と南北方向の道路(以下「従道路」という。)等が交差する変形の交差点であり、信号機による交通整理は行われていない。主道路は、片側一車線の道路であり、中央線は黄色実線で本件交差点の中まで連続して表示されており、最高速度は毎時五〇キロメートルに規制されている。本件事故当時は、雨が降っていたため、本件事故現場付近の道路は湿っていた。主道路及び従道路の両脇はいずれも畑である。主道路を南東に向けて走行してきた場合、本件交差点付近における従道路の見通しは、草木に若干妨げられるものの概ね良好である。

被告は、平成七年六月二一日午前七時一五分頃、孫を学校まで送るため被告車両を運転し、主道路を南東に向けて時速約三五キロメートルで走行していた。別紙図面<1>地点で孫と学校への道順等について話をしながら走行していたところ、同図面<2>地点において従道路から南に向けて前かがみの状態で出てきたハツエ運転のハツエ車両(同図面<ア>地点)に気づき、急ブレーキをかけるとともに左ハンドルを切って回避措置を採ったが間に合わず、被告車両は、同図面<×>地点でハツエ車両に衝突し(右衝突時における被告車両の位置は、同図面<3>地点であり、ハツエ車両の位置は同図面<イ>地点である。)、同図面<4>地点に停止した。ハツエは、同図面<ウ>地点に転倒し、ハツエ車両は、同図面<エ>地点に転倒した。ハツエは透明の雨合羽を着用していた。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告及びハツエが、本件交差点に進入するにあたり、それぞれ交差道路を進行してくる車両の動静を注視し、その安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、右注意義務を怠ったまま漫然と進行した過失が競合して起きたものであると認められる。本件事故の態様にかんがみると、被告とハツエの過失割合は五対五の関係にあるとみるのが相当である。

二  争点2について(損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 治療費等 二〇万六三九六円

治療費等として標記金額を要したと認められる(甲三、弁論の全趣旨)。

(二) 逸失利益 二一一万三六七八円

証拠(甲一、二、乙五1、六5)及び弁論の全趣旨によれば、<1>ハツエは、本件事故当時七三歳(大正一〇年一一月一五日生)であり、夫と離婚した後、宮崎県都城市で一人暮しをしていたこと、<2>原告(昭和三〇年一〇月三一日生)は、中学卒業後宮崎県都城市を離れ、本件事故当時は大阪府豊中市で暮していたこと、<3>ハツエは、社団法人都城市シルバー人材センターの活動に参加して平成六年度分の配分金として六八万六一七〇円の収入を得ていたこと、<4>ハツエは、本件事故に遭わなければ、その後も六年間は稼働することができたであろうことが認められる。

右認定事実によれば、ハツエの逸失利益算定上の基礎収入は、六八万六一七〇円とし、生活費控除率を四割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右期間内の逸失利益を算出するのが相当である。なお、原告は、ハツエが有職家事従事者であるとして賃金センサスを基礎収入とすべきであると主張するが、ハツエの行っていた家事は自分自身のためのものであるから、これを基礎収入として考慮することはできない。したがって、逸失利益は次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 686,170×(1-0.4)×5.134=2,113,678

(一円未満切捨て)

(三) 死亡慰謝料 一九〇〇万円

本件事故の態様、ハツエの年齢、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、ハツエの死亡慰謝料は一九〇〇万円とするのが相当である。

(四) 葬儀費用 一二〇万円

本件事故と相当因果関係にある葬祭関係費は、合計一二〇万円をもって相当と認める。

2  損害額(過失相殺後)

右1に掲げた損害額の合計は二二五二万〇〇七四円であるところ、前記の次第で五割の過失相殺を行うと一一二六万〇〇三七円となる。

3  損害額(損害の填補額控除後)

原告は、本件交通事故に関し、被告から一九万三二三六円、自賠責保険から一四九八万五四六〇円の支払を受けているから、前記過失相殺後の損害額からこれらの支払分を控除すると、残額は存しないことになる。

4  弁護士費用

右のとおりであるから、原告の弁護士費用の全部ないし一部を相手方である被告に負担させることはできない。

三  結論

よって、原告の請求は理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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